苦い文学

持論依存症

この世界でもっとも強靭なものといえば持論だろう。ダイヤモンドよりも硬いのだ。

それもそのはずだ。持論はカチコチに凝り固まった頭の中だけで生成される特殊な鉱物だからだ。

この鉱物が干からびた頭の中でぶつかって発する音声が持論だ。転じてこの鉱物の名称ともなった。

持論が頭の中で鳴り響くと、ある種の快楽物質が発生する。持論依存者が陶酔したようすで持論を語るのはこのせいだ。「持論を開陳する」とか「持論を展開する」とかの病状が現れる。

さらに持論の鉱物が大きくなり、依存度が増すと、「一方的に持論をぶちまける」とか「持論をまくし立てる」とか、そういう困った状態になる。ここまでくるともう治療が必要だ。

だが、治療を受けずに、持論依存が進行すると、対話や議論によって持論を発展させたり、修正したりすることはもはやできなくなる。硬直化した頭にはもはや他人の意見など入り込む余地はないからだ。

そのため、持論依存症患者の展開する持論は、非現実的で、他者への配慮を欠いたものになりがちだ。結果として、持論依存症患者が、世間から厳しい批判にさらされることになることも多い。炎上騒ぎもザラだ。

患者が立場のある人の場合、持論について釈明会見を強いられることもある。だが、その場で謝罪したり、持論を撤回するどころか、かえって滔々と持論を述べる場にしてしまうのが、持論依存症の恐ろしいところだ。

この状態になると、依存症患者の頭の中で音を立てている鉱物としての持論は、最高の強度を持つようになる。さまざまなハイテク産業で需要のある鉱物なので、これらの依存症患者の頭をかち割って、鉱物だけを取り出して売ると、けっこういい値がつく。