苦い文学

J アラートの改良

博士が「このままの J アラートではダメです」と言って、岸田内閣に大胆な提案を行ったとき、誰一人反対するものはいなかった。それほど北朝鮮の脅威が差し迫っていたのだ。

博士は語った。

「J アラートとは、ご存知の通り、弾道ミサイルの落下などの緊急情報を、携帯電話などを通じて瞬時に伝達するシステムです。だが、現在の危機的状況にあっては、ミサイル感知の精度を高め、よりすばやく J アラートが鳴るようにしなくてはなりません」

博士は自信たっぷりに告げた。「私は日本のミサイルから守るべく研究を行い、ついに J アラートのミサイル感知システムの精度・感度をこれまでの 10 倍以上に引き上げることに成功しました! この新システムが実施されれば、J アラートはどんなささいな落下も見逃さず、ただちに警報を発するでしょう! 日本国民の生活を守るためには、ぜひ必要です!」

この提案に感激した岸田内閣は、ただちに実行を命じた。ついに完璧な防衛体制が敷かれたのだ。

そして、そのとき以来、私たちの苦しみがはじまった。全国いたるところで J アラートが一日じゅう鳴り響くようになったのだ。実際、我が国は落下ばかりだった! 出生率の低下! 政治家のモラルの落下! 円安! 株価の下落! そして経済大国からの転落! 博士のシステムはありとあらゆる落下に反応し、わたしたちから安眠と安らぎを奪ったのだった。

今朝など、朝っぱらからけたたましく J アラートが鳴り続けるので、「すわ今度はどんな落下が?」と私たちは騒然となった。

ただ岸田首相のメガネがずり落ちただけだった。