喫茶店で友人と話していて、最近のニュースの話題になった。
大学駅伝の監督が陸上部の学生と不倫していたというのだ。友人はさも呆れたというふうに言った。
「いや、駅伝の選考会を控えて、こんなことをしでかすとは脇が甘いの一言に尽きるよ」
「脇が甘い?」 私は思わず言い返した。「うーん、最近よくそう言う人がいるけど、ちょっと使い方おかしくない?」
「いや、油断してたってこと」
「たとえば勝負事していてうっかり相手にしてやられたり、大事な書類を人目につくところにおいといて紛失したりするのを、『脇が甘い』ってのならわかるけど、これは違うでしょ。不倫して学生に手を出してる。脇が甘いのどうのという問題じゃない。倫理の問題だ」
「しかし、監督という立場にしてはたるんでるんじゃない」
「それはそうだけど、つまり」と私は携帯の辞書を引いた。「脇が甘い、というのは『用心が足らないために,つけこまれやすい』とある。立場を利用して学生をいいようにするのがつけ込まれやすい? これじゃまるで学生がつけ込んだみたいじゃないか。そもそも、用心が足らない、というのは、バレなければいいってことかな。脇が甘い不倫をしてたから記者につけ込まれた? そうじゃないと思う。脇が甘かろうがなんだろうが、指導者が学生と付き合うのはルール違反だ」
私がこういうと、友人は怒り出した。「わかった、こい! その屁理屈が正しいかどうか、確認しようじゃないか」
彼は私は引っ立てると外に出てズンズン歩いていった。
「どこ行くんだよ!」
そしてしばらくのち……
私たちは件の不倫監督の家にいた。私たちが報道関係者でない真面目な学究だと知ると、監督はドアから顔を出した。「これこれこういうことで、私たちの間に論争が勃発し、ガザ地区並みに手に負えない状況となっているのです」と友人は説明した。
「そこで、つきましては、監督の脇を舐めさせていただけないでしょうか……甘いか、しょっぱいか……すっぱいか……」