苦い文学

贖罪のグルメ(2)

「ああ、コロナが私たちの生活をすっかり変えてしまったのです! もちろんご存知でしょうが、コロナ禍では外食はできず、出前サービスが大流行りとなりました。あなた、使ったことはありますか?」

「いえ、出前にお金を払うなんて、そんな余裕はありませんでした」

「そう、それが普通なのです。ですが、富裕層は普通ではないのです」

「ええ、うらやましいかぎりです」

「ですが、どうでしょう。富裕層の中にこう豪語する者がいたとしたら? 『もう店で食べるなんて貧乏くさくて!』 そこまで思い上がってしまったのです。なかには店の主人に向かってこう言ってのける者すらいました。『店に食べにくる貧乏人どもの相手なんかやめて、デリバリー専門にしろよ!』と」

「それはすこしいい過ぎだと思いますが、いろいろな価値観があってもいいでしょう」

「ええ、ですが、問題はですね、富裕層のなかにはコロナ禍の変化についていけず、零落する者もいた、ということなのです。もう出前サービスを利用できないほどに落ちぶれてしまった! そして、コロナが終わり、外食が解禁となったいま、これらの人々に店で食べる資格はあるでしょうか。いや、ないのです」

「それで、あの人は自らの高慢の罪を償い、赦しを乞うているのですね」

「ええ、そうです。自分が裏切った店を、一軒一軒まわっているのです」

(店員がモップで床を拭き始め、濡れた客を追い立てて店外に出す。そのときチキンカツが運ばれてくる)

おっ、うまそうじゃないか。これは正解。まずはソースを……

(そのとき、隣の客が話しかけてくる)

「じつにおいしそうなチキンカツですな。サクサクころもに、パリッとした皮! あふれる肉汁! ああ、私にも味わうことができたなら! 出前サービスがひっきりなしに出入りしていたあの栄耀栄華を思うにつけ……ああ!」

(そういうと、隣の客、涙を流しながら、割り箸で自分の頭を叩き始める。よく見ると足元は折れた割り箸でいっぱいで……)