苦い文学

贖罪のグルメ(1)

出張で商談がうまく済み、伸びやかな気持ちで、駅前の食堂に入った。派手ではないが、真っ当な店構え。この駅に降り立ったときから、目をつけていたのだ。

昼下がりの店内は年配の客がちらほら。席についてメニューを見る。目に飛び込んできたのはチキンフライ。もうこれは動かせないな。と、さっそく注文。もちろんビールも。

落ち着いて店内を見回す。壁のお品書きをじっくり見るのも楽しい。意外につまみも充実している。きっと夜はにぎやかなのだろうな……。

あれ、あの人はなんだろう。来たときには気がつかなかったけど、びしょ濡れじゃないか。水が床にも滴り落ちている。

(ずぶ濡れのみすぼらしい客がおり、店の女将にコップを差し出す。女将はお冷を入れる。その客、コップを頭の上に持ち上げ、自分に水をかける)

な、なんだ、あの人は。頭からお冷をかぶって。また、お冷をもう一杯……ぶっかけた!

(そのとき、隣のテーブルの男が声をかけてくる)

「度肝を抜かれたようですな」

「ええ、いったいなんなのですか」

「贖罪ですよ」

「贖罪?」

「ええ。彼はこうやって自分の罪を償わずにはいられないのです」

「いったい、どういう事情でしょうか?!」(つづく)