苦い文学

エコな不倫

平安時代の『大和物語』にこんな物語が記されている。

その昔、大和国葛城郡に男と女が暮らしていたという。やがて男には浮気相手ができ、その相手のもとへと足繁く通うようになった。

女はというと、すこしも妬むようすもなく、男を送り出すのであった。

ある時、不審に思った男は、浮気相手のもとに行くと見せかけて、物陰からこっそり覗っていた。

女は涙ながらに横になると、水の入った金椀を胸の上に置いた。すると、その水が沸騰したではないか。女はまた水を入れ替える。椀の水は再びぐつぐつと沸きだした。

これを見て、男は思わず女のもとに駆け寄った。嫉妬の炎を利用して蒸気機関を動かし、発電することはできないかと考えたのだ。男は、さっそくそのアイディアを実行に移し、実用化に成功した。

いまでは、男が浮気相手のところにいる間に、女は嫉妬の火力発電を行い、自宅の電気をまかなうばかりか、近隣の家々に電気を売っている。

そして、男は、浮気相手に会いに行くのに車を使わず電車に乗ったり、デートではエコバッグやマイ箸、水筒を持ち歩いたりして、環境にやさしいゼロエミッションな不倫を心がけているということだ。