苦い文学

効果のあるガス

「今、日本が危ない! 私たちは美しい日本を取り戻さなければならない!」 そう叫びながら、真の愛国政党が政権を握ったとき、私たちは拍手喝采した。なぜなら、この政党だけが日本を守ってくれると確信したからだ。

愛国政府は、我が国を敵対する勢力を厳しくやり込める政策をどんどん実行していった。私たちは胸がすくような思いで応援した。

愛国首相がこの世界の真実を暴いたときも、私たちは大喜びしたものだった。

「GHQ は日本を破壊しようと数多くの卑劣な企て行った! そのうち最大のものが日本の四季の破壊だ! 反日勢力は気象兵器で温暖化なるものを引き起こし、日本の春と秋をなくそうとしているのだ。なぜなら、桜咲く春と紅葉彩る秋は、日本精神にとってかけがえのない季節であり、これを破壊することによって日本精神を根絶やしにしようとしているのだ!」

首相はこの歴史に残る演説を続けた。

「温暖化など、反日勢力が日本を滅ぼすために捏造した嘘にすぎない! 我々はこれら卑劣な反日勢力を一掃し、気象兵器に対抗しなくてはならない! 日本の四季を取り戻そう!」

私たちはこの演説を聞くや、すぐさま街頭に繰り出して、パレードを始めたものだった。

そして、ある日、政府は反日勢力の弱点が見つかったと発表した。奴らがきらいなのは、なんと温室効果ガスだったのだ。

私たちはこれを聞いたとき「なるほど、それで温暖化などでっち上げ、ガスを減らそうなどとのたまっていたのか」とあきれ、この策略を見抜いた我が政府の慧眼に感心した。

政府はさらに発表した。「反日分子かどうかは、温室効果ガスを吹きかければすぐにわかる」

ただちに日本中に「反日分子判定センター」が建設された。そこには温室効果ガスで満たされた小部屋がいくつもあって、反日分子はその中では生き延びることはできない。

このガスにそんなありがたい効果があったとは!

私たちは歓声を上げながら判定センターに押し寄せ、今、その前で列を作って、入る順番を待っている。