苦い文学

自殺談義

私の友人が電話してきて「これから自殺をするつもりだ」と言った。

私は「いのちの電話じゃない!」と怒鳴りつけて切った。

しばらくするともう一度電話をかけてきた。私は出て言った。

「もう死んだか」

「まだだ」

「ああ、よかった」と私。「有名人じゃないのに自殺するなんておかしいからな」

「なに? 有名人?」

「それとも、もう有名人になったのか」

「なに? 違うよ、なってないよ」

「じゃあ、自殺なんて無理だあきらめな」

「有名人がどうしたの」

「どうしたって、今や自殺できるのは有名人だけだから」

「えっ知らなかった」

「知らないじゃすまないよ。そんなこともわからずに自殺しようだなんて、呆れたね」

「関係あるの?」

「おおありだ。たとえばお前がその自殺とやらをやったとしよう。だけど、警察はもう自殺といえば有名人だと思い込んでるのだ。だから、警察はワクワクしてやってくる。有名人に会える、とね。

「そんなところにお前の死体が伸びてたとしよう。いやもう警察はがっかりだ。それどころか、腹を立てて3回は蹴りつけるね。むろん、自殺だなんて絶対に認めない。こんなのを自殺に計上したら、日本じゅうの警察署から笑いものだ! 『事故死』と、記入して終わりさ。おまえはそれでいいのか?」

友人は否定のうめきをあげたが、私は容赦なく続けた。

「それに、はっきり言えば、もうお前にできる自殺などはない。自殺はとっくに売り切れ! 有名人と Youtuber がみんな買い占めちゃった。何回もするつもりでいるのだ」

友人は泣きそうな声で「じゃあ、どうすればいい? 外国の自殺はどう? 安いんじゃない?」

「お前のバカさ加減にはあきれたね。外国の自殺はなにが入っているかわからない。下手をすると命の危険もあるぞ! 国産をお勧めするね」

「でも、手に入らないんでしょ」

「まあ、そうがっかりするな」と私は友人を励ました。「気長に待てば、30 年後ぐらいに、有名人のお下がりが手に入らんこともないさ。その前に死なないように、体に気をつけるんだな」