人は死んだら、魂となって永遠の世界に遊ぶという。
だが、永遠の世界とはどんな世界なのだろうか。一目なりとも見て心の備えをしたいと考えた私は、あらゆる賢者を訪ね、ついに《永遠の世界に片足を突っ込んでいる》と呼ばれる賢者のもとに辿り着いた。
その老人は私の頼みを聞くと、静かに問いかけた。
「お前はどうして永遠の世界を見たがっているのか」
「心の平安を得たいのです。《永遠の世界に片足を突っ込んでいる》お方よ。死後、永遠の世界で安らかに過ごすということがわかれば、私はもっと死を受け入れることができるでしょう」
賢者は無言で上着を脱いだ。胸のあいだ、乳首と乳首の中間点に黒いシミがあった。
「これを見なさい」とそのシミを指差した。「もっと顔を近づけるのだ」
顔を寄せて、その黒いシミを見つめると、不意にそれが穴に変化したように感じられた。
「そこから覗き見るのだ」
私は言われるがままに、老人の乳首のあいだの穴から覗き込んだ。「永遠の世界が見えよう」と老人は言った。「だが、その世界はお前の思っていた通りかね」
ああ、その世界では確かに魂でいっぱいだったが、なんという状態だろうか。すべての魂が、まるでビデオの早送りのようにちょこまかと動き回っているのだった。
私は思わず声を漏らした。「永遠の世界だというのに、なんとせせこましいのでしょう」
「愚かな。永遠の世界で人はゆっくりのんびり過ごしているとでも思っていたのかね。むしろ、時間の基準がないため、知らず知らずのうちに、どんどん加速してとんでもないタイパ世界となってしまったのだ。このままだと、魂の摩擦で発火し、世界は永遠の炎に包まれるであろう。むろん、そうなったとて、魂は死にはしないのだが……」
あんな世界で永遠に焼け死ぬくらいならば、死んだほうがマシだと考えながら、私は賢者のもとを立ち去った。