先日、映画館に行ったら、観客席で車椅子の人と男の人が言い争っていた。
二人とも興奮しているので事情がよくわからなかったが、どうやらこういうことらしい。
観客席には車椅子の人が鑑賞できるようなスペースが設けられている。それは観客席の中央にあり、その前は通路になっている。
立っている男はチケットを予約するとき、前が通路の席にしたいと考えていた。というのも、前に座席がないし、足を伸ばせるからだ。
だが、その日のその回は通路前の席はいっぱいだった。そこで、彼は車椅子のスペースの後ろの席を取ることにした。車椅子の客が来なければ、少なくとも前は開いていることになるからだ。
だが、劇場に入ってみると、車椅子の客がいるではないか。そこで彼は車椅子の客が車椅子いらずになるようにと念じに念じた。
すると、奇跡が起きた。車椅子の客がいうには不思議な直感に動かされたということだが、気がついた時にはすっくと立ち上がって、歩き出していたのだという。
彼はそのままポップコーンを買いに行き、戻ってくると、当然のことながら車椅子に座った。これが男の気に食わなかった。
「歩けるようになったのに、車椅子にまた座るのはおかしい!」
口論が始まった。「おかしい」「いや、おかしくない」「普通の座席に座れ!」「いや、この席を私は予約したのだから動かない」
業を煮やした男が、車椅子の客を押し除けて自分が車椅子に座ろうとしたところで、警備員に摘み出された。
このできごと以来、私は奇跡を信じるようになったが、同時に奇跡を信じなくもなった。