苦い文学

多様性推進局

「多様性は国家の原動力である。国民の多様なあり方が認められる社会であれ」

こう書かれた額が掲げられているオフィスで、私が担当しているのは多様性申請の受理だ。

それはなかなか大変な仕事だった。朝8時半にはオフィスの前に申請者が詰めかけて押し合いへし合いしているのだ。

もっとも、それも無理はなかった。多様性申請が認められないと、就労や給与の点で非常に不利になるのだから。

私はさっそく申請者への対応に取り掛かった。

多様性サービス係に連れられて、今日最初の申請者が前に座った。渡された申請書をざっと見る。「多様性申請の理由」に「同性愛者」と書いてある。

私は彼・女に言った。「あー、同性愛者ですか。残念ながら、これでは通らないですよ。お帰りください」

「そんな、同性愛は認められないのですか」

「ええ、残念ながら」

「多様なあり方を認めるというのに?」

「ええ、我が国にもうどれだけ多様な同性愛者がいると思っているのですか」(申し訳ないが私はもうこの申請者にうんざりしていた。)

「ですが、同性愛者の私は差別されていますよ!」

「ええ、それはあなたがただの同性愛者だからです」

「ただの? ただのってどういうことです?」

「多様な同性愛者があまりにもいらっしゃるので、ただの同性愛者は認められる可能性が低いのです。なぜなら少しも多様性に貢献しないので。では……」

と私が切り上げようとすると、申請者は慌てて引きとめた。

「ちょっと待ってください。私だってただの同性愛者ではありません。こんな経験も、ほら、こんなことも……」

そうやって彼・女は、自分の特別な点を数え上げ、実演してみせた。だが、どれもこれも私がもう何千回も他の申請者たちから見聞きしたものだった。

私はもう耐え難くなった。デスクの下のボタンを押し、多様性サービス員を呼び出して、この申請者を排除してもらった。

おそらく、彼・女はまた来るだろう。この社会に数少ない多様性を引き当てて「ただの同性愛者」ではないということを証明するまで、何度でもやってくることだろう。