苦い文学

ギターの力(2)

若者たちは意図を知らされずキャンプ場に連れてこられたもののようで、誰もが所在なさげに佇んでいた。

博士は、助手に合図をした。助手は壇上のギターを持ち上げ、姿を消した。十分ほど経ったとき、人々はギターを抱えた助手がモニターに出現したのを目撃した。

静まり返った会場を前に、博士は語りかけた。

「さあ、フォークギターを投入します。壮大な実験の始まりです!」

助手は若者たちの間めがけて走り、ギターを放置すると来たときと同じような速さで走り去った。

突如として出現した異様な物体は、若者たちに衝撃と恐怖をもたらしたようだった。だが、おそるおそる近づいたひとりのオスの個体がギターの弦をかき鳴らしたとき、状況は一転した。

若者たちは興味深げにギターを見つめ出したのだ。さらにオスの個体はギターを抱え、ポロロンと爪弾いた。すると、その音色に誘われて若者たちがオスの個体の周りに集いだした。

助手が博士に報告した。「第一段階クリア!」「うむ、第二段階にとりかかれ!」

再び助手がモニターに現れ、四角い物体を若者の輪の中心に放り投げた。博士は告げた。

「コード譜の載った分厚い歌本です! 70年代の名曲がすべて網羅されています。これが起爆剤になるでしょう!」

人々は異様な成り行きに、モニターから片時も目を離すことができないのであった。