苦い文学

撮影可の秘密

ある博物館の特別展に行った。入り口に「混雑しています」との掲示が出ていたが、押し合いへし合いするほどでもなく、どの作品もじっくり見ることができた。

この特別展では、全作品の写真撮影が許可されていた。なので、みんな写真を撮っている。

私も記念写真程度に数枚写真を撮った。しかし、ひとつひとつ撮影している人のほうがずっと多かった。

意味がないとは思わないが、そんならカタログ買えばという気もしないでもない。

カタログの写真のほうが、薄暗がりのなか携帯で撮った写真よりもきれいに決まっているからだ。

だが、しばらくすると別の考えが生まれてきた。

全作品撮影可というのは、実は混雑解消のためではないだろうか。

というのも、写真を撮ると私たちはそれで見た気になってしまう。また、じっくり見る必要もない。後で写真を見返せばいいのだから。

すると、ひとつひとつの作品の前での滞在時間は短くなり、どんどん列が進んでいくことになる。

そして列の進みが早いということは、入場者の満足にもつながるし、また入場者の増加にもつながる。

なんという計略だろうか。全作品撮影可とは、入場者に見た気にさせてとっとと追い出す策略だったのだ。

この計略に気づいた私は、あえて作品にへばりつき、じっくりと見ることにしたのだったが、撮影する人々には邪魔だったにちがいない。