苦い文学

マイマイナンバーカード

マイナンバーカードが始まったとき、これが私たちを苦しめようとは思いもしなかった。だが、それはゆっくりと進行していったのだ。

はじめは銀行口座、次に保険証、その次は免許証、さらにパスポートがひもづけられた。そして、納税記録とあらゆる買い物記録もだ。診療記録ももちろんだ。さらにはいつのまにか、経歴、学歴、ポートフォリオ、通信記録、交友関係……私たちのすべてがこのマイナンバーカードに記録されるようになっていた。

ある日、政府はこれらのデータをもとに AI を使って、「私」を作り上げた。その上で政府はこう通知してきた。公的にはこの「私」以外、認めない、と。

それ以来、私たちはこの「私」にならなくてはいけなくなった。もし「私」になりきれれば、その時はすべてうまくいく。「私」のものは私のものになるのだ。

だが、もし「私」になれなかったとしたら?

私たちは逮捕されるだろう。他人のマイナンバーカードを不正に使用しているとして。