苦い文学

誇りたい日本人

日本語教育の夢を持ち意気揚々と中国に行った吉田七郎を待ち受けていたのは、現地日本語学校の倒産であった。

金もなし、ビザも切れる……そんな吉田のもとに一本の電話が。これが吉田の人生を大きく変える転機となった。

(CM)

「300 人の中国人に簡単な日本語を教えて欲しい」

電話の主はなんと習近平国家主席。中国の最高権力者からの直々の要請を断る選択肢はなかった。さっそく吉田は、北京の大講堂内の教室に向かった。

そこで明かされた指導目標はただひとつ。「処理水やめろ」を2日間で教え込むこと。

吉田「はじめは、簡単だと思いましたよ。みな真面目そうでしたし」

吉田は自信を持って 300 人の中国人学習者の前に立ち、流暢な中国語で「みなさん、今からいう日本語を繰り返してください」と語り、はっきりと口を動かしながら大声で叫んだ。

「処理水やめろ!」

いかにも真面目そうな中国人は声を合わせて繰り返した。しかし、その発音は吉田を愕然とさせるものだった。

(CM)

【実際の映像】

吉田「処理水やめろ!」

中国人学習者「チョリソー食べろ!」

その後何度も練習を繰り返したが、いっこうに「チョリソー」が「処理水」に変わる気配はなかった。1日目が終わり、ついに2日目の午後。すでに残り時間は3時間……。

「いったい、どう指導したらいいんだ……」 ひとり悩む吉田。そのとき彼の目にあるものが飛び込んできた。「こ、これだ!」

アナウンサー「さて、ここで問題です。吉田さんの問題解決のきっかけとなった『あるもの』とはなんでしょうか? 以下の4つからお選びください」

(a) ミネラルウォーターのペットボトル
(b) 毛沢東語録
(c) 広東風の腸詰
(d) 「変面」コスチューム

正解は CM の後!

(CM)

【実際の映像】

マントをつけ仮面を被った吉田、中国人学習者の前に現れ、つたないながらも変面を披露する。拍手喝采する中国人。変面のコスチュームのまま吉田は呼びかける。

「では始めましょう、処理水やめろ!」

中国人学習者「処理水、やーめろ!」

吉田の苦労が実った瞬間だった。

アナウンサー「正解は (d) でした!」

吉田「あのとき、学習者の皆さんは、私を受け入れてくださらなかったんです。その距離感が処理水をチョリソーにしていたのです。私が中国文化に歩み寄ることで、みんなが私を受け入れてくださり、結果として処理水を受け入れてくださったのだと思います。いえ、実際には受け入れていませんけど、ハハハハ」

現在、日本各地で鳴り止まぬ中国からの迷惑電話、その陰にはひとりの日本人の苦労と努力があったことを忘れてはならない。

(CM)

次回の「誇りたい日本人」では「日本大使館に投石したい? 立ち上がった元侍ジャパンの奮闘」をお送りします。