友人が少し早めの夏休みを取って、外国に行ってきた。それで、こんな話をしてくれた。
「俺がその国に行ったのは2回目で、初めて行ったのはちょうどコロナが広まりつつあるときで。
「当時その国にはまだコロナにかかった人はいなくて。しかも徐々に渡航制限が出始めている時期で、アジア人はほとんど見かけなかった。
「アジア発の奇妙な病気が流行っているというニュースが広まっているだけで。見た目がアジア人だとすぐわかるから、本当に不愉快な経験をしたよ。俺が近くを通りかかるだけで、みんなこうするんだ。(と、彼は両手で口を塞いでみせた) まるで俺がコロナだっていうみたいにさ。コロナってのはそんなもんじゃないんだ、って内心くやしい思いをしながら、帰国したというわけだ。
「でも、その後、その国にもコロナが広まって、まあ、どこの国も同じだ。で、ようやく今年になって落ち着いたから、この間その国にまた行ってきたんだ。イヤな思いをしたのにどうしてかっていうと、イヤな思いをしたからさ。
「その国に着いて、街を歩いてみると、コロナなんかなかったかのような賑わいだ。しかも、誰も俺をみて口を塞いだりしない。いや、ひとりか2人はいるんだ。だけど、明らかに向こうのほうがコソコソしてる。
「勝った、と思ったね。それを見にきたようなもんだ。コロナはアジア人だのなんだの関係ないんだから。この3年の間に、コロナがそれを証明したんだ」
そう言うと、彼はまるで自分がコロナであるかのように胸を張った。