苦い文学

携帯ショップ(2)

展示台の下に身を潜めている若者の耳にこんな会話が聞こえてきたのだった。

「バッテリーが落ちそうなのはどれだったかな」

「ああ、これこれ、もう残り1パーセントもない。……ほら消えた」

「そうか。さあ、お客様がくるぞ」

すると、自動ドアの開く音が聞こえて、夏の夜とは思えないような冷たい風が吹き込んできた。「いらっしゃいませ」と2人がいうのが聞こえた。しばらくすると「お買い上げありがとうございます」の声と同時に再び自動ドアが開き、その客らしき存在は出ていった。

「さて、次に寿命の切れそうなものは……」

「これかな。3パーセントぎりぎりだ」

「では、まだ間があるな。裏で休んでいよう」

2人が奥へと去っていったのを確信すると、若者は台の下から出てきた。この不思議な場所からできるだけ早く逃げ出すべきだと思ったが、そのいっぽう、あの謎めいた存在たちがあと3パーセントと言っていたのがどんな携帯なのかが気になった。

若者は、声がしていたところに行き、並んでいる携帯をひとつひとつ調べ始めた。そして、驚きの声をあげた。

そこにあったのは、自分の顔が映し出された携帯であった。しかも、バッテリーは3パーセントの赤い線で、今にも消えてなくなりそうだった。