苦い文学

旅立ち

海外旅行で一番ハラハラさせられるときはいつだろうか。

飛行機がガクンと揺れるときだろうか。それとも異国の街の危険地帯に足を踏み入れたときだろうか。

だが、機内がどんなに悲鳴に満たされようと、剣呑な街角できらめいたナイフがどんなに鋭かろうと、空港の中での行列に並ぶのに比べれば、まったくハラハラさせられないのだ。

ああ、しかし空港の行列はどうして我々の神経をすり減らすのだろうか。

なぜか一向に列が進まないのだ。搭乗時間が迫っているというのに。びくとも動かない。

確かに前の方では列は進んでいる。その進みがたとえ5メートルだとしても、後ろに伝わっていく間に、少しずつむしり取られ、私の並ぶ後方に来るときはに、わずかに 1 センチにまで減ってしまうのだ。

みんな話に夢中で列を詰めるのを忘れてしまっているのだ。

いったい、いつ私は旅立てるのだろうか。たぶん、そのうち、パスポートの有効期限が切れてしまうだろう……。