仕事がないので、サイトに登録して、試験監督のバイトをした。なんの試験だかは言えないが、検定や資格試験のようなものだ。
当日、会場に行き、本部となった一室で試験の流れについて打ち合わせを済ませる。腕章をつけ、問題用紙やマークシートを抱えて担当の教室に行く。同じ教室の担当は他に2人いた。
2人は私よりずっと若い。あまりやる気のなさそうな感じだ。それで結局私がなんでもすることになった。教卓の上に用紙をきちんと並べたり、忘れた人用の筆記用具を確認したり、教室の時計が合っているか確認したり、黒板に注意事項を書いたり……。若い2人は私があまりにもテキパキしているので、驚いているようだった。
準備をしている間に受験者が集まり、試験開始時間も近づいてきた。まずマークシートを配る。
私はマークシートを抱え、もう片方の手の指に唾をたっぷりつけた。できるだけスムーズに配るにはこうしたほうがいい。すると、若いのが駆け寄ってきて「配らせてください!」と私からマークシートを取った。
マークシートを配り終えると、次は問題用紙だ。私は問題用紙を持ち上げ、指をしっかり舐めた。すると別の若いのが慌ててやってきて「代わりにやらせてください!」と問題用紙を奪い、どんどん配り始めた。
さて、試験が始まり、無事に終わった。問題用紙とマークシートの回収・確認も済み、あとは教卓を教室に隅に移動するだけだ。
私はひとり教卓の前に立ち、最後の一仕事だと、両手にぺっぺっと唾を吐いて、揉み手をした。
すると、すぐに若い2人が飛んでくるではないか。「代わります! 代わります!」といいながら教卓を掴んで移動させてしまった。
短い間であったが、若者2人はどうやら私にずいぶん感化されたようだ。私たちは本部に戻り、残りの作業を終え、解散となった。
別れぎわに前途ある2人を激励しようと、私は握手の手を差し出したが、恥ずかしかったのか早足で行ってしまった。