苦い文学

最初の男

ビルマの北部にカチン州というカチン民族が多く住む州がある。カチン州では昔からビルマ国軍とカチン人との間に戦争があって、停戦期間を挟みながら現在まで続いている。そのため、カチン州の農村はいま非常に悲惨な状況なのだという。

先月、私の友人の在日カチン人の男性がカチン州を訪問した。私は彼と会う用があり、喫茶店でその時の話を聞く機会を得た。彼は私より10以上年上で、健康状態も良くはないが、自分の民族のためにできることをしているのだった。

カチン州の州都はミッチーナーといい、ビルマの最大都市、ヤンゴンとは 1000 キロほど離れている。

私の友人によれば、ヤンゴンからこのミッチーナーに行くには3つの方法があるそうだ。鉄路、道路、空路だ。鉄路が一番安いが、2021 年 2 月の軍のクーデター以来封鎖されている。

次は道路、つまりバスだ。朝ヤンゴンを出て、翌日の朝に着くのだという。料金も安いが、いまバスで行くのは危険だという。ミッチーナーへの長い道のりでは、いくつもジャングルを通らなければならない。するとそこにはビルマ国軍の兵士たちがいる。兵士たちはバスを止め、金品を要求するのだそうだ。拒否なんかできない。銃を持っているからだ。

ビルマ軍をやり過ごしたとしてもまだ安心はできない。別のジャングルに入ると、今度はビルマ軍と敵対している武装組織が潜んでいる。もちろん銃をもっているから、ここでも金品を奪われる。

そして別のジャングルには、また別の武装組織が潜伏している。金品を差し出すのはもちろんだ。ヘマをして機嫌を損ねでもしたら大変だ。食べ物も飲み物もないジャングルの中で、丸一日、足止めを喰らう可能性だってある。

結局いちばん安全なのは飛行機ということになる。料金が今や何倍にもなっているが、これしかないし、私の友人もそうせざるをえなかったという。

ところで、タイトルの「最初の男」というのは、彼がハンディファンを持っていたからだ。

かねてから、おじさんは絶対にハンディファンを使わない、と主張してきた私であるが、例外との最初の出会いにもう笑いが止まらない。