熱烈なる美術愛好家にして、著名な発明家であるコンスタンタン・ドールヴィイ伯爵のパリの邸宅、《美麗荘》では、錚々たる名士が呼び集められ、伯爵の発明品の公開を興奮の面持ちで待ち受けていた。
その発明品は「現代のヴァンダリスムに対する輝かしき勝利」をもたらすものだと招待状には記されていた。客人たちはその証人として招かれたのであった。
やがて伯爵が現れ、額に入った大きな絵画が運ばれてきた。伯爵はその絵の隣に立ち、語り出した。
「今、ヨオロッパの藝術は未曾有の危機に瀕しております。不遜なる環境活動家どもにより、名画という名画に、スープ・テロという野蛮な攻撃が加えられておるのです。私は、人類の遺産たるこれらの名画をテロから守り、環境活動家どもの行為を葬り去るべく、防御システムの開発に打ち込み、ついに完成したのです」
どよめきが沸き起こった。ついにあの頭のおかしい連中に鉄槌が下されるのだ。その瞬間に立ち会うことができるとは!
伯爵は一人の若い召使いを呼び寄せた。あらかじめ打ち合わせしていたものらしく、召使いは缶を持って、絵画の前に立った。伯爵は額縁の四方を指し示した。
「角に設置されたセンサーが、ただちに不審者を感知します。そして瞬時にその手にある缶を分析し、内容物を完全な精度で突き止めるのです」 伯爵は額縁の下辺中央に取り付けられた表示板を示した。そこには「トマトスープ」という文字が浮かび上がっている。
召使いはすぐに缶のラベルを人々に見せた。それは確かにトマトスープの缶だった! 客たちの息を呑む音が響くなか、伯爵は召使いを促す。
召使いは素早い手つきで缶を開け、絵画に向かって缶を掲げるや、ぴたりと停止した。「いま、この瞬間、人間の認知よりも遥かに速いスピードで、額縁に仕込まれた防御システムが作動しているのです」と、伯爵は語り、召使に呼びかけた。
「さあ、やりたまえ」
召使いは振りかぶって缶の中身をぶちまけようとする。その瞬間、額縁の上下左右から内側に赤い液体が噴出し、絵画全面がトマトスープで覆われた。