よくあることだが、私たちの車両におかしな人が乗り込んできた。そいつは自分の頭を両手で覆い隠しながら、こんなふうに喚いているのだった。
「やめろ、やめろ! ポイ捨て禁止だぞ!」
もちろん、私たちのうち誰もポイ捨てなどしているものはいなかった。
「やめろ! ポイ捨てやめろ!」とそいつは言いながら、大きな紙袋を取り出した。「ちゃんとこのゴミ箱に入れなきゃダメじゃないか!」
そして、紙袋を振り回し、私たちを睨みつけた。
「俺の頭に想念をポイ捨てするのをやめてくれ!」
この一言で状況がぐんと緊張しだした。ただのゴミの話ではなかったのだ! さらにそいつは喚く。
「お前らはなんでもすぐ捨てるんだ! あのころの夢! 切ない気持ち! 秘めた想い! 野望! 淫らな欲情! なんでもかんでもすぐ捨てやがって! 俺の頭はゴミ捨て場じゃないっての! だから、こっちのゴミ箱に入れてくれ、お願いだから。全部、全部だ、ここに捨ててくれ!」
このときの私たちの恐怖といったらなかった。そいつは私たちを激しく非難し、自分を被害者だと訴えているのだ。いつ攻撃に発展してもおかしくはなかった。
私たちはただ黙っていた。ちょっとのミスが惨事を招くかもしれないのだ。喚き続けるそいつを前に、私たちの恐怖と苦しみはもはや耐え難いレベルに達していた。
そのときだ、一人の男が立ち上がってそいつを怒鳴りつけたのだ!
「お前はなんてことをしてるんだ! ポイ捨てだ? 想念だ? 全部そのゴミ箱に捨てろだと? ふざけるな!」
勇気ある男はそいつを圧倒し、激しい口調で続けた。
「ちゃんと分別しなくちゃダメじゃないか!」
……あのころの夢は「もう燃えないゴミ」に、切ない気持ちや秘めた想いは「ちょっとしたきっかけで燃えるゴミ」に、野望は「有害ゴミ」に、劣情は「リサイクル」に……