苦い文学

AI 時代の隠者(2)

取材も終わりこの現代の隠者の家を去るときがきた。私は帰りぎわにふと思いついて、こう言った。

「これから私は AI の世界に戻りますが、そこであなたのことを記事に書こうと思っています。もちろんネットを通じて配信する予定です」

「どうぞ」

「ですが、記事に書かれたあなたの情報のせいで、あなたが『AI の餌』になってしまうのではないでしょうか」

「ああ、その心配ならいりません」

「といいますと」

「あなたが立ち去ったのちに、何百万ものフェイクニュースが流れるからです。そのニュースはあなたに似た人物が私に似た人物を訪問した記事で、無数のバリエーションがあるのです。あなたの書いた記事はその記事に埋もれてしまうことでしょう」

「ニュースを流すとは? ここにはネットも何もないとおっしゃっていましたが?」

「ここにはありません。ですが、無数に配信される記事の中で訪問された私の小屋のひとつにはあることでしょう。そこでは強力な AI が無限ともいえる数のフェイクニュースをこしらえているはずです」

私は混乱した。すると彼は笑った。

「お気づきでしょうか。あなたもこれらのフェイクニュースの一部なのですよ。あなたも、私も、この小屋も、なにもかも、あなたのお書きになる記事も、それを読んでいる人ですらも」

私には理解できなかったが、ここにありのままを記した。