苦い文学

山手線を応援します

山手線と京浜東北線は田端から品川まで並走している。

この2つの路線のうち私はだんぜん山手線を応援している。山手線は真面目だし、乗っている人も上品だ。いっぽう、京浜東北線はそうではない。乗っている人はみな刺青をしている。

そして、いつだってのろい。たとえば京浜東北線が上野駅を先に出て、山手線がその後に出たとしても、東京駅では勝負はついている。山手線が決まって勝つのだ。たぶん、運転手の練習量が段違いなのだろう。

山手線が京浜東北線を追い越すときが、この世で一番楽しいときだ。どんどん追い抜かれていく京浜東北線を見ながら、私たち乗客は両手を振り上げ、歓声を上げる。あかんべえをしている人もいれば、祝杯をあげている人もいる。いっぽう、京浜東北線の乗客はみなうなだれて悔し涙を流している。

京浜東北線の乗客たちはよっぽど悔しいのか、ズルまではじめた。昼間、乗客が少ない時間を狙ってこっそり駅を飛ばしだしたのだ。そんなことまでして勝ちたいのかと私たちはおかしいやら呆れるやらだ。

京浜東北線の乗客には申し訳ないが、私たち山手線の乗客はもうあなたたちには興味がない。私たちは別のステージにいるのだ。なにしろ今の目標は、東京・品川間を新幹線より早く走ることなのだから。