都内某所のホールに保守主義者たちが集まっていた。真実の歴史をつくる講師がやってくるのだという。
やがて、一人の男が壇上に現れた。彼がその講師だった。
「さあ、今日皆さんは、偽りの歴史が真実の歴史に変わる目撃者となるのです!」
講師は出席者を見渡した。そして一人の男に目をつけると、壇上に呼び寄せた。男がそばにくると、講師はその名前と携帯電話の番号を聞き、こんなふうに質問した。
「今朝、朝食に何を召し上がりましたか?」
男は不安そうに答えた。「朝食? ええ……ご飯と納豆と味噌汁です」
「なるほど、健康的ですね。ではしばしのあいだ目を閉じてください」
男が目を閉じると、講師は男を黒い布で覆い、その周りを一周して、奇妙な叫びとともに二本の指で黒い布を差した。
「歴史を修正しました」
講師が黒い布を取ると、男が現れた。先ほどとなにひとつ変わらぬ姿だ。
「いかがですか」と講師。
「いえ、特になんにも」
「では、お聞きしましょう。今朝、朝食に何を召し上がりましたか?」
「朝食? さっき答えましたよ」
「ええ、もう一度おっしゃってくれませんか」
男は不満そうに答えた。
「ジャムトーストとカフェオレです」
その瞬間、会場全体が息を呑んだ。講師は出席者たちに向かって叫んだ。「これが、真実の歴史です!」
そして、何か起こっているのか飲み込めない男に講師は黒い布を再びかけ、前と同じ仕草をした後、叫んだ。
「歴史を修正しました」
講師が黒い布を取ったとき、人々は驚きのあまり絶叫した。なんと男は影も形もなかったのだ。
講師は落ち着き払って携帯電話を取り出し、男が教えた電話番号にかけた。携帯はマイクに繋がれていて、発信音がホール中に鳴り響く。男が出た。「もしもし」
「今日、どうして集会においでにならなかったのですか」と講師。
「えっ? 今日は本当は行く予定だったのですが、朝食で悪い卵を食べてお腹を壊して行けなくなったのです」
たちまち会場は熱狂の渦に巻き込まれた。講師は携帯電話を切って叫んだ。「これが、真実の歴史です!」
この日、保守主義者たちは日本に真実の歴史が生まれたのを目撃したことに満足して家路についた。