苦い文学

私の冥福をお祈りください

私の冥福をお祈りください。なぜなら私には人生がないので。素晴らしき哉人生、人生は美しい、ライフ・イズ・ビューティフル。それが人生というならば、素晴らしくも美しくもビューティフルでもないのはもはや人生ではないということでは。人生がないのならば、せめて冥福があったっていいのではと思い、急ぎご報告する次第。つきましては、私の冥福をお祈りください。死んだ人の冥福を祈る暇があったら、この世界で私が冥福に出会えるようにお祈りください。日々のささやかな暮らしを彩る小さな冥福。たまたま買い物した日が5%OFFの日だった、とか、ぐっすり昼寝をしたとか、とか、知らない人にちょっと親切にしてもらった、とか、あるいはその逆に親切なことをしてあげた、とか、何気なく些細な冥福があればそれで十分。そんなさりげない冥福がまるで奇跡みたいに訪れるように。冥福が無理ならば大福でもいいです。どちらでもいいです。だから、どうか私の冥福をお祈りください。いつかこの世界を去るときが来たら、私にも冥福があったと思い返せるように。