苦い文学

魔の信号

横断歩道で信号は赤だが、あなたはどうしても渡りたい。車が走っていなければ渡ってしまうし、ひっきりなしに通るようであれば、諦めて青になるのを待つ。

問題は車が散発的にやってくる道の場合だ。車通りが途切れたときを狙えば、赤信号など無視して渡ってしまえるかもしれない。

そこで、あなたは左右から迫り来る車を窺いながら、渡る機会を狙い続ける。だが、なかなかそのチャンスは来ない。右が空いた、と思っても、左から車が飛ばしてくる。左が途切れた、と右を見ると3台ばかり連なっていて、これらが通り過ぎる頃には、左のほうから何台も接近中だ。

だが、やがて、左右のどちらからも車の来ない瞬間が来る。あなたはその隙をついて横断を始めるが、前を向いたあなたは気がつくのだ。信号がすでに青に変わっていることを。いや、あなたが渡り始める前にもう青に変わっていたかもしれない。少しでも早く渡ろうという努力が、結局あなたを出遅れさせたのだ。

赤信号の間、左右の車に翻弄されるかわりに、おとなしく待っていたほうが、どれだけ有意義に時間を過ごせたかもしれない。だが、時すでに遅しだ。

あなたは信号を出し抜いてやろうと躍起になっていたが、結局のところ、信号にしてやられたのだ。

これを魔の信号と呼ばずしてなんと呼ぼう。