苦い文学

オニスタグラム

Instagram に上げる写真には、自分がもっとも昂揚した瞬間が写されている。

それは、異国の景色や美しい風景から受ける感動だったりするが、そうした瞬間はめったにない。そこで、我々はもっとありふれた瞬間で手をうつことになる。

そうした瞬間のうち、もっとも手軽で、なんの苦労もいらないのが食べ物の写真だ。毎日必ず出くわすものだし、自分で作る必要もない。注文して、出されたものをパチリとすればそれで完成だ。

そもそも、人間は食事を前にした時がいちばん高まるのだ。Instagram が食べ物の写真で溢れるのも当然といえば当然といえる。これは別に悪いことではないが、ひとつ困ったことがある。

食べ物の写真を上げる習慣が広まったせいで、食べ物を前にして写真を撮らないというごくごく当たり前の行為が、今度はその食べ物に対する不満を意味するまでになってしまったのだ。

そのせいで、このまえ食事をごちそうになったとき、ただその誤解を避けるためだけに、私は写真を撮らざるをえなかった。

それはさておき、鬼たちの世界にも Instagram があって、やはり大流行りだ。

鬼たちの投稿を見てみると、どの鬼も、人間の写真を何枚も上げている。

人喰い鬼も、われわれ人間とそう変わらないようだ。