苦い文学

もっとも危険な投函

私たちの住む街に、誰も決して投函できないポストがある。

閉鎖されていたり、差し入れ口が閉じていたりするのではない。正常なポストなのだが、誰も郵便物を出すことができないのだ。

もともと、私たちはポストに投函するのをつい忘れがちだ。忘れないように玄関に置いていても、カバンの中にあらかじめ入れておいても、一度外に出るや、ポストは蜃気楼のように消失してしまう。

もしかしたら、私たちの精神を麻痺させるような何かがあるのかもしれない。そして、問題のポストは私たちをとことん幻惑し、郵便物のことを完全に忘れさせるのだった。

以前、ある若者がこのポストの噂を聞きつけ、自分なら投函できる、と挑戦することにした。

「このポストを征服するためには、麻痺に負けない強靭な精神力が必要だ。いかなる曖昧さも峻拒するような精神状態を保ち、一歩一歩、精神を張り詰めながら、ポストにアプローチする必要がある」

登山の経験があった若者は、まるで峻険な山を攻略するかのように慎重に計画を練った。

ポストは街の中にあるから、道はいたって平坦だった。だが、若者は実際にはその道のりが難路中の難路、きわめて危険なルートであることに気がついた。

そして、準備と訓練を重ね、ある朝、ひとりベースキャンプを出発した。手には一枚のハガキがあった。

道を進むにつれ、次第に精神の痺れが若者の脳に忍び寄った。だが、彼のピンと張り詰めた心はそれらをたちまち追い払った。彼は、危険な裂け目を飛び越え、垂直な岩壁をよじ登った。あちこちで、いく人もの遺体が郵便物を握りしめながら雪に埋もれているのを見かけた。

そして、ついにそのポストに到着した。やってのけたのだ。若者は澄んだ景色のように晴れ晴れした気持ちでハガキに走り書きすると、投函した。

そこには「人間の精神がもっとも明晰な状態にあるのは、ポストに郵便物を投函している瞬間である」と書かれていたが、どこの誰にも届かなかった。