苦い文学

心のケア

現代では話の終わりには必ず心のケアが出てくる。

「事件を受けて、学校は生徒の心のケアに努めると語っています。では、次のニュースです」

こんなふうな具合だ。

そもそも、私たちは心のケアを持ち出されるともう何も言うことはできない。

心のケアが大事なのはいうまでもないし、大賛成だ。だが、そのいっぽう、私たちは心のケアがいったいなんなのか、どういうことをするのか、まったく知らないのだ。

だから、心のケアが出てくると「これはもう俺たちがどうのこうの言える話題じゃない」という神妙な気分になって、もう話を打ち切ろうという気になってしまう。

だから、面倒くさい話を終わらしたい時などにも「心のケア」が有効だ。たとえば愚痴を聞かされているときなどはテキメンだ。

「心のケアが必要だね……」

これでもう相手は黙ってしまう。怒られている時だってそうだ。

「心のケアに努めます……」 どんな反省よりも効き目がある。

職務質問だって。

「ちょっといい? こんな時間にどこ行くの」

「は、ちょっとそこまで心のケアに……」