苦い文学

大股びらき

私たち男は電車の座席で大股を開く存在だと煙たがられている。

「迷惑だ」「見苦しい」「邪魔だ」「自己中だ」「不快だ」「粗末だ」……

私たちの開かれた股に、どれだけ非難・批判・罵り・軽蔑が投げかけられてきたことだろうか。

確かに私たちはそれに値する。だが、それでも、私たち男にも言い分があるということも知ってほしい。

男の股に睾丸と呼ばれる二つの球があるのはご存知かと思う。この球は地球と同じく磁性を帯びている。二つの球は、普段は違う極どうしが並び、くっつきあっている。だが、不意に片方の球が反転してしまうことがあるのだ。

どうしてそんなことが起きるのかについては、諸説ある。鉄道の発する電磁波の影響によるもの、と考える人もいるし、電車の揺れが少しずつ球を回転させるのだ、という人もいる。

いずれにせよ、球が同じ極で向き合うとき、激しい反発力が発生する。これが、私たち男の股を勝手に開かせるのだ。

私たちは自分が股を開いているなど、まったく気がつかない。勝手に球が反発しあっているだけなのだから。私たちが気がつくのは、ただ周りの乗客たちの厳しい目によってのみだ。

私たちは慌てて股を閉じる。

だが、それはどんなに大変なことだろうか。なにしろ反発しあう睾丸を股でぎゅっと押さえ込むのだ。

みなさんも、両足をそろえて座る男性を見かけたら、やさしい目で見てやってほしい。もしかしたら、その固く閉じられた股間では、今まさに、二つの睾丸が激しく暴れ回っているかもしれないのだから。