苦い文学

急接近

日本語の書記システムにおいては、通常、4つの文字システムが用いられる。ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字である。

ほとんどの言語は、ひとつかふたつの文字システムしか用いない。なので、4つもあるというのは、非常に珍しいことだと思う。

ひらがな、カタカナ、漢字、ローマ字には使い分けがある。漢字は漢語、用言の語幹に用いられ、ひらがなは用言の活用部分、助詞などに用いられる。カタカナは外来語、擬態語などだ。ローマ字は補助的に用いられている。

カタカナは、しばしば非日本人の発話を表記するのにも用いられる。

外国人「ドーモ、スミマセン」

宇宙人「ワレワレハ、宇宙人ダ」

こうしたカタカナの用法は、カタカナがそもそも「カタコト」の印象を表すのに適しているからだ、と考える人もいるかもしれない。だが、むしろ、日本人という共同体の内と外とを文字使用の点でも区別したいという欲求によるものであろう。

いずれにせよ、「私たち」の発話は「ひらがな」、「私たち以外」は「カタカナ」という間合いの取り方が今でも見られる。

かつては、コンピュータも「カタカナ」で話したものだった。

「イジョウジタイ、ハッセイ、タダチニ、タイヒセヨ」

最近、ChatGPT が話題になっている。賛否両論があり、議論は絶えないが、もし、ChatGPT がひらがなでなくカタカナで回答していれば、反応は違っていたにちがいない。

どんなに優れた技術でも、いきなりひらがなは、急接近すぎて私たちをドキドキさせるのだ。