苦い文学

ある訓練

最近は、人の往来も活発になり、長い間ご無沙汰していた人々との再会の機会も増えた。

先日、たまたま友人に会ったが、コロナ以前とまったく変わってしまったのに驚いた。以前は、痩せていたのだが、今見る彼はでっぷりと太っているのだ。

その理由を聞くと、毎日のように二郎系のラーメン店に通っているのだという。私はこれにも驚いた。

「食べ物などに全然興味がなかったのにジロリアンとは! いったいどうした心境の変化だい?」

「それだがね、ロシアのウクライナ侵攻がいっさいを変えてしまったのだ」

「というと?」

「日本のマスコミは不思議に報じていないが、この戦争はロシアが勝つ可能性が高いのだ。ロシアが勝つとどうなるかというと、次は日本だ。中国と手を組んで、ロシアは我が国を瞬く間に占領してしまうだろう」

「だが、アメリカは? 最強の同盟国は?」

「トランプが何かしてくれるとでも?」

「なるほど!」

「さて、ロシア占領下の我が国で何が起こるだろうか? もちろん、連中お馴染みの粛清だ。あちこちに強制収容所が建設され、疑わしい者は全員放り込まれるだろう! この私も間違いなくだ!」

「たしかに、余計なことばかり言うからな」

「で、そのロシアの収容所ときたら! かねてからソルジェニーツィンを愛読している私は、どれだけ劣悪な環境か知り抜いているのだ。食事だって、ろくなものは出ない。よくて豚の餌、しかも、高圧的な看守たちからネチネチ意地悪を言われながら、大急ぎでかっこまねばならないのだ」

「ははーん、それで」

「そのとおり、前もって訓練しているというわけだ」

私は彼の言葉に同意はしなかったが、彼のような人がいる以上、「収容所の臭い飯専門店(ヒドクサイ店)」をフランチャイズ展開するのも悪くはないかもと思った。