苦い文学

居眠り

電車で居眠りしていても、私たちは乗り過ごすことはほとんどない。たいてい、降りる駅の直前で目が覚める。それどころか、目が覚めたときに、降りる駅でドアが開いていた、なんてときすらある。私たちは慌てて座席から飛び上がり、外に出る。

どうしてこうしたことが起きるのかについては、いろいろな意見がある。私たちは眠りながら無意識では起きているのだ、と言う人もいるし、体内時計が自然とセットされているのだ、と考える人もいる。

目を覚ます原因はわからないが、これはまるで死のようだ。

私たちの人生は電車の中で居眠りをしている人に例えられよう。寝ているあいだに次から次へと駅が通過していくが、私たちはそれに気がつくことなく、夢を見続けている。

だが、降りるべき駅が近づくと、私たちは不意に目覚めるのだ。

私たちは時が来たことを悟り、慌てて電車から降りる。

その先に何があるかは、誰にもわからない。私たちはただ電車で見た夢のかけらを抱えて、どこかに消えていく。