苦い文学

チャンドス卿の毛蟹

敬愛する友よ、私が次のような経験について話すのをご容赦ください。

北の地を旅する私はとある朝市でふたつの毛蟹を食べ比べしたのです。

ひとつ目の毛蟹は確とした秩序ある姿でいかにも美味しそうでしたが、その身を食べるとすぐに、口の中で崩れてしまいました。口のなかで、さまざまの概念がとつぜん曖昧な色合いになり、輪郭をなくして入り混じってしまったのでした。

私は眩暈を起こし食べるのをやめました。

もうひとつの毛蟹は、初めのものとはまったく違いました。とるにたらぬ被造物のようであり、地面に転がる石のようでもありました。ですが、ひとたび口にするやいなや、その味の流れが言葉にならない無限の恍惚感を引き起こしたのでした。

私はただちにこちらの方の毛蟹を買い求めました。

敬愛する友よ、この毛蟹を、おまけにベーコンをつけて、送料無料の大特価でお届けすることをお許しください。お支払いは着払いにてお願いいたします。

*上記のような文面の手紙とともに、一方的に毛蟹などの食品を送りつけて代金を要求する詐欺が増えています。身に覚えのない商品は絶対に受け取らないでください。