苦い文学

みぎり

「私たちの工場では、バックアップにもとづく人体の再生を行っています」と工場長は記者を前に語りました。

「バックアップと言いますと?」

「人間の情報を記憶、経験、個性といったものも含めて、データとして記録することです。人間のバックアップですね。このバックアップさえあれば、いつでも再生可能なのです」

「つまり、機種変してもデータは受け継がれるのと同じ、ということでしょうか」

「ええ、まさしくその通りです。ですが、機種変はたいていバージョンアップですが、私たちはバージョンダウンに力を入れています」

「バージョンダウン?」

「バックアップにはつねに古いバックアップがあります。たとえば、20歳の頃のバックアップ、15歳のバックアップ、子どものころのバックアップ、といったように。こうした古いバックアップをもとに、より以前のバージョンを甦らせることもできるのです」

「すごいですね。ですが、なんのためですか?」

「『頼朝公幼少のみぎりのしゃれこうべ』ですよ! これからは世界中の著名人のバックアップをもとに、子ども時代のしゃれこうべの大量生産を目指します。幼少のみぎりのしゃれこうべにご本人の直筆のサインとシリアルナンバーを入れて販売、などということも珍しくなくなるかもしれません」