苦い文学

最後の日本人

私たちが世話をしているお年寄りたちの中にジャマーダさんという人がいました。物静かで、いつもニコニコしていて、甘いものが大好きで……。

見たところ普通の老人でしたが、ひとつ他の老人と違うところがありました。

ジャマーダさんは最後の日本人だったのでした。日本人というのは昔の人々で、日本人の話になるとジャマーダさんは決まってこういうのです。

「立派すぎていなくなったのだ」

私たちはおかしくてたまりません。でも「そんなことってあるの?」だなんて聞こうものなら怒りだすので、ただうなずくだけです。

ジャマーダさんは日本語も話すことができました。得意そうに話してみせてくれましたが、本当は少ししか知らないようでした。

ジャマーダさんが亡くなった時のことも覚えています。何日も昏睡状態だったのですが、急に目を開いて日本語で何か話し出したのです。

驚いた私たちが話しかけるとこんなふうに言いました。

「タケシマが取られる! タケシマが取られる!」

私たちはジャマーダさんを落ち着かせながら「大丈夫ですよ。取られませんよ、絶対に……」

ジャマーダさんは微かに笑みを浮かべて、その夜亡くなりました。

私たちが初めに考えたのは「タケシマ」というのは日本語で「魂」のことだろうということでした。ですが、ジャマーダさんの遺品を片付けていると、きちんと畳まれた服の下からたくさんのお菓子が出てきました。「タケシマ」というのはお菓子のことだったのです。

私たちは、ジャマーダさんの棺にこれらの「タケシマ」を入れてあげました。私たちの世界にはもう不要なものでしたから。