苦い文学

カップ・アンド・ボール

その夜、私は仕事帰りにコンビニに寄った。ちょうど入り口脇の駐車場が空いていたので、そこに車を停めて、店内に入った。

数分後、私は缶チューハイを買い込んで、車内に戻った。家に帰らなければ、と思ったが、どうしても我慢できなかった。缶を一本取り出すと、慌てて開けて一口啜った。

酒が血のように全身を駆け巡るのがわかった。家まではもう5分もかからない。私は缶をドアのポケットに隠し、エンジンをかけた。

その時、私の目の前に一人の男が現れた。黒いタキシード姿で、黒いハットの下には青白くシワだらけの顔があった。異様な光を帯びた目が私に向けられていた。

私が叫ぼうとすると、男は白い手袋をはめた手をすばやく挙げ、人差し指で口を封じてみせた。

男の前に、小さな台が現れた。その上には、二つのカップと一つのボールが置かれていた。男は滑らかな手つきで私に二つのカップが空であることを示し、それから、台に置かれたボールに、片方のカップを逆さにしてかぶせた。そしてもう一つのカップも底を上にして置くと、二つのカップを素早く入れ替えだした。

お馴染みの手品であることはもう明らかだった。私はボールの入ったほうのコップを見逃すまいと食い入るように見つめていた。

手の動きが止まった。不思議な手品師は、ポケットから棒を取り出し、前に置かれた二つのカップの上で左右に揺らした。その目は私に向けられていた。

どっちだ。私はもはやわからなくなっていた。どっちだ。

手品師のウォンドが右のカップの上に来たとき、私は叫んだ。そっちだ!

手品師はウォンドで、カップを叩いた。トントン。さらに叩く。トントン。そして、急にカップの底を強く打った。カップは反動で飛び上がり、底を下にして立った。

ボールがあった!

私が快哉の叫びを上げると、たちまち、すべてが消え去り、私は車の中にいるのだった。私はいい気分で缶を取り出して一口飲み、サイドブレーキをさげようとした。

その瞬間、運転席の窓を誰かが叩いた。見ると、警官だ。その目は私が持っている缶チューハイをしっかり捉えていた。

私は車の外に立たされた。警官は飲酒運転だと言い張り、私を解放しようとしないのだった。言い合っている間に、コンビニから男が出てきて、私を胡散臭そうに見ながら、私の隣に停めてあるミニバンに乗り込んだ。

警官はまもなく私に何度か飲酒運転の逮捕歴があることを突き止めた。彼は私の肩に手をかけ、パトカーのほうへと促した。

そのときだった、ものすごい音があたりに鳴り響いた。見れば、隣のミニバンがコンビニに突っ込んで店内をめちゃくちゃにしていた。人々の悲鳴が聞こえた。

彼もまた右を選んだのだ。