苦い文学

ノー・ルッキズム

人を見た目で判断したり、ある外見を特定の偏見と結びつけるのは、ルッキズム(外見重視主義、外見至上主義)と言われる。

我々にとって視覚で得られる情報というのは重要だから、人の外見というものから離れることはできないが、それでもって決めつけるようなことがあってはならない。

さて、ルッキズムに反対し、自分は絶対に人を見た目で判断しないという人が、とある事件の唯一の目撃者となった。

その人のところに刑事がやってきた。犯人の特徴を教えてくれというのだ。

「犯人は、男でしたか、女でしたか」と刑事。

「そんなことは言えません。見た目で男性か女性かを決めつけることはできませんよ」

「では、日本人でしたか、外国人でしたか」

「それにもお答えできません。外見で外国人か日本人か判断するなんて差別ですよ」

「では、どんな服装でした。ズボンでしたか? スカートでしたか?」

「それに答えたら、特定の服装に対する偏見を煽ることになります」

「では、これだけは教えてください。どんな顔でしたか。髭を生やしていましたか。それとも口紅をしていましたか」

「私は顔で人を判断しないのが習慣なので、どんな顔かもまったく覚えていないのです」

刑事は言った。「すると、目や鼻や口があるかないかもお忘れでしょうね」

目撃者はうなずいた。「ええ、じっさいそのとおりです。心が大事なので、顔は思い出せないのです」

刑事はガクリと頭を下げ、こう言った。

「それはこんな顔では?」

顔を上げた刑事には、目も鼻も口もない。男は悲鳴をあげて気絶したそうだ。

反ルッキズムだろうとなんだろうと、行き過ぎるとかえって妖怪につけ込まれるということだろう。