苦い文学

最後のもの

私はすべてを失い、もうどうとでもなれという気持ちで、鉄の棒を持って家を飛び出た。

そして、駅に行き、鉄棒を振り回して、何枚ものガラスを叩き割ったのだ。悲鳴と怒鳴り声が鳴り響き、私はあわてて逃走した。

しばらくして現場に戻ると、警察が写真を撮ったり、巻き尺で窓を測ったりしていた。

人だかりもできていた。その一人に「なにがあったのですか」と尋ねるとこんな答えが返ってきたた。「酔っ払いが暴れたんだ」

すると別の人が言った。「いいや、あれは半グレだよ、刺青をしていたから」

「ちがう」とまた別の人。「老人だった。最近の老人は手荒で困るよ」

人々は口々に言い出した。

「見るからに外国人だったよ。日本人があんなことするわけない」「不良中学生だったぞ」「女、女だよ。ヒステリー起こしてた」「いや、怪しげなホームレスを見た」「ありゃ、ネトウヨだ」「ちがう、過激派だ」「反日勢力だって」「アニメオタクだよ」……

私は我慢しきれずに言った。

「私が犯人ですよ!」

人々は大笑いだ。

「お前みたいなひよわそうなのが? 俺たちはこの目で見たんだ。すごい図体だったぞ」

私は警察官に訴え出た。「ごめんなさい。私がやりました」

「ふざけるのはやめなさい」

「本当です!」

「防犯カメラにはっきり犯人が写っているのだ! 公務執行妨害で逮捕するぞ!」

私はすっかり絶望した。自分の犯した罪さえ奪われるのなら、いったい何が残るというのだろうか。