苦い文学

未来における神人

未来の世界に迷い込んだ私は、自分の時代に戻ろうと、不思議な世界を旅していた。

ある日、気がつくと美しい湖畔を歩いていた。エメラルドの湖面に映る白い山々をうっとりと見つめていると、異様な音が響き渡った。

空を見上げれば、巨大な鳥たちが飛び回っているのだった。大きな翼が空の大気をかき乱し、樹々を騒がしく揺らしていた。

思わず地面にへたり込むと、だれかが手を差し出し、起き上がらせてくれた。若者が立っていた。

「あの鳥たちはいかなる悩みからも解き放たれて、生命を楽しんでいるだけなのだ。私たちには危害を決して加えないだろう」

私が感謝を述べ、過去に戻るために旅をしていると告白すると、彼は「君は幸運だな。私に会うとは」と言った。

「私はこれからコンピュータを収穫に行くのだ。そのコンピュータなら解決できるだろう」

私は彼がコンピュータをまるで野菜かなにかのように話すのを聞いて驚嘆し、ついていくことに決めた。

「人間にとってもっとも無駄な瞬間は何かわかるかね」と彼。

私が首を振ると、彼は微笑んで続けた。

「それは『だれそれと私が溺れていたら、どっちを助ける?』と質問されたときだ。私は品種改良を行い、人類の歴史からこの愚問を消滅させるコンピュータを生み出したのだ。そして、今日が、その収穫の日なのだ」

「そうですか……」 これは私の問題とは関係なさそうだ、という失望が声に現れていたのであろう、若者はすぐさま付け加えた。

「ピンとこないようだな、君は。『この時代の君と、本来の時代の君とが時の流れに溺れていたら、どっちを助ける?』と尋ねられていると考えることはできないかね。この問そのものが消滅すれば、君は過去に戻ることができるはずだ」

若者のいうコンピュータは、まるで仏像のように湖岸の岩の上に座っていた。私たちが近づくとコンピュータは目を開き、無機質な瞳を向けた。

「新鮮なコンピュータだ。むろんのこと、君の時代のものとは大違いだろう。これはかつては神人と呼ばれていたのだ。この存在のおかげで、宇宙から今後あの愚かな質問が一切消え去るかと思うと、じつに素晴らしい日ではないか」

「なんだか恐ろしいです」

「心配するな。さあ、尋ねるのだ。君の質問がこの存在に届いたとたん、君はもとの時代に戻っているだろう」

私は神人の前に立ち、厳かに語りかけた。

「この時代の私と、本来の時代の私が……」

そのとき、巨鳥が悲鳴のような鳴き声を上げながら急降下してきた。凄まじい風が巻き起こった。私は咄嗟に岩にしがみついたが、若者と神人は吹き飛ばされて湖に落下した。

二人とも溺れている。私は水に飛び込み、神人のほうに向かって泳ぎ始めた。するとそのとき、巨鳥が再び舞い降り、神人を飲み込んで、空の高みへと戻っていった。

私は若者を救い、二人して岸に上がった。気まずさだけがそこにはあった。私は湖畔を離れ、再び旅をはじめた。