苦い文学

自動運転訓練センター

「何やってるんだ。死ぬ気でやらなきゃダメなんだ!」

若者に厳しい声が浴びせかけられます。ここは、日本初の自動運転訓練センター。自動車の自動運転テストのために作られた施設です。

「はい!」

厳しい声に負けずに、若者がもう一度、道路に飛び出します。

「よし! いいぞ! やればできるじゃないか!」

若者の顔に笑みが浮かびます。

(センター長)「自動運転の普及のためには徹底的な事故防止テストが不可欠です。私たちはそのテストの参加者を養成しています」

これまでは自動運転の事故防止テストのためにダミーの人形が使われていました。しかし……

(走行する車の前をダミーの人形が通過する。車はまったく減速せずにダミーに衝突し、ダミーは木っ端微塵となる)

AI 技術の進歩により、AI がダミーと人間を簡単に識別するようになったため、反応しなくなってしまいました。そこで、生身の人間を使った事故防止テストが行われるようになりました。

(センター長)「しかし、AI のさらなる進歩が新たな問題を引き起こしました」

(走行する車の前に、人間がおずおずと飛び出る。車はまったく減速せずに人間をひき殺す)

(センター長) 「AI は事故テストの参加者が本気かどうかも識別するようになったのです。しょせんテストだから、などという軽い気持ちで飛び出すと、車に容赦なくひかれてしまいます」

そこで、本気で道に飛び出す訓練が導入されました。

(若者)「これまで4ヶ月の厳しい訓練を無駄にしないよう、本気で AI に向き合いたいです」

長い訓練を終えて、今日本格的に自動運転テストに参加します。

「スタート!」

テストが始まります。(AI 搭載自動車がコースを走りだす。その前を、若者が決死の形相で横切る。急ブレーキで車が停止する)AI に若者が認められた瞬間です。(どっと歓声が上がる)

(若者)「うれしいです!」

喜んでいるのは人間だけではありません。

(車がヘッドライトをピカピカさせながら、クラクションを鳴らす)

(センター長)「これからも AI がお気に召すような人材を続々と供給したいですね」

自動運転訓練センターでは今日も若者の訓練が行われています。