苦い文学

最後尾の人(2)

その日以来、尾藤は常に自分が列の最後尾にいるのに気がついたのだった。

電車を待つとき、職探しに並ぶとき、銀行のATMに並ぶとき……いかなる列でも、彼が一番最後だった。並びながら、いくども振り返った。だが誰もやってこなかった。

最初のうち、これは彼を苛立たせ、不機嫌にした。しかし、最後尾の日々が続くにつれ、不気味さがまさってきた。まるで最後尾の貧乏神に魅入られたかのようなのだ。

彼は抗った。最後尾から逃れようとした。列を見るや、割り込んでみせた。ああ、だが、その瞬間、割り込まれた人々はバラバラに散っていき、彼が最後尾となるのだった。

あるときは、どこからかこんな声が聞こえてきたような気がしてきた。

「あの背中!」

もしかしたら自分の背中に人を後ろに立たせるのに躊躇させる何かがあるのかもしれない。そんな思いにとらわれて、彼は背筋を伸ばしてみた、肩をいからせてみた、逆になでで肩にしてみた、さまざまな形の肩パッドを試してみた、すごく派手なスカジャンを着てみた……すべて無駄な試みだった。

果ては、列の呼び込みまで始めた。最後尾に立ちながら、道ゆく人に対して、食べ物なり商品なりを勧めて自分の後ろに並ばせようとしたのだ。だが、誰一人彼の言葉に購買意欲をそそられるものはいなかった。それどころか営業妨害だと警察を呼ばれるありさまだった。

これらさまざまな試みののち、彼は諦めた。この世には一番がいるように、最後尾になる人間もいなくてはならない、ということを受け入れた。彼はこの世界の最後尾だったのだ。

尾藤老人は死の床で青年に語った。

「ああ……それを認めるのは苦しかった。いや、それを認めてからも苦しかった……だが、高望みしてなんになろう……そうだ、高望みはするな……たとえそれが最後から2番目に繰り上がることだとしても……」

そう言い残して、老人は息絶えた。

看護師と医者が入ってきて最後の処置をはじめた。青年は、最後尾に取り憑かれた老人について考え、哀れに思った。そして、病室を出ようと立ち上がったとき、医者たちが驚きの声をあげた。

老人が息を吹き返したのだった。

蘇った老人は起き直ると、青年に向かって悲しげに言った。

「あの世に入る列に並んだら、まだ最後尾はいらないんだと」

その老人はいまも死ぬ順番を待っている。