苦い文学

浮気調査

探偵の依頼の大部分は浮気調査だが、この浮気調査には2つの種類がある。

ひとつは、自分の配偶者なり恋人なりが浮気をしているのかどうか調べてもらう浮気調査。

もうひとつは、自分がバレずに浮気できるかどうか調べてもらう浮気調査だ。これは浮気適性調査とでも言ったらよいだろう。

こうした依頼の根底にある考えは、浮気を明るみに出すのに長けているのならば、浮気を隠す方法も熟知しているに違いない、というものだ。つまり、善に強きは悪にも強し、というわけだ。

この後者の調査においては、探偵は依頼者を一定の期間尾行し、その素行を調査する。その後、依頼者は探偵から調査結果を聞くことになる。

「ええと、浮気適性は4段階評価のうちD評価になります。職場から家まで、脇目も振らず早足で帰るようではいけませんね……」

しかし、適性がないからといって簡単に諦められるものではないのが浮気だ。そうした場合、探偵は依頼者に「浮気能力検定試験」の受験を勧める。

「これに合格すれば、まったくバレずに浮気する実力が身につきます。決してバレないのですから、ある意味、堂々と浮気ができるのです」

「受けない」などといえようか。たちまち依頼者は受験者へと転ずるのである。

しかし、この試験に合格するには広範囲の知識を身につけなくてはならない(民法・刑法はもちろんのこと、心理学、経済学、地政学、文化、文化、文化など)。難易度から言うと、司法試験と司法書士試験の間ぐらいだ。

だから、必死になって、それこそ寝食を忘れて勉強しないと合格はおぼつかない。そんなわけだから、難関をくぐり抜けて、合格した時の喜びはひとしおだ。なにしろ、これで晴れて浮気ができるのだ。

合格者には立派な合格証書が送付される。あまりにうれしくて、たいていの人は額縁に入れてリビングに飾ってしまう。そのあとに何が起きるかはいうまでもなかろう。