この前の日曜日、私はウェイトリフティング大会に参加した。
入賞すると国際大会へのチャンスもある大きな大会だ。
私がエントリーしたのはもっとも下のクラスである「無職級」だ。もちろん自信はあったが、やはり日本の経済が厳しくなっているのか、私程度の人生の重荷を背負っている人などいくらでもいた。あえなく一回戦敗退という結果となった。
早々に脱落した私であったが、大会そのものは見応え十分だった。
痛ましい虐待、恨みに満ちた離婚、憤ろしい犯罪被害、重い病気、精神的苦しみ、不慮の災難、絶えざる憂愁、身に覚えのない債務、愛する者を奪われた悲しみと絶望……
競技場で選手たちがこれらのウェイトを必死の形相で持ち上げていく姿は、驚異でもあり、感動的でもあった。私たちはそれこそ我を忘れて応援の声援を送った。
特に見ものだったのは決勝戦。あらゆる絶望と悲嘆を持ち上げてきた二人の選手の一騎打ちとなったのだ。ウェイトに加えられたのは「難民」。相当の重量だ。
最初にチャレンジした選手はまったく歯が立たなかった。もう一人の選手がバーベルを握る。これに成功すれば優勝だ。全身に力を漲らせ、持ち上げようとする。ビクともしない。顔を歪める。真っ赤になる。
「ガンバレ、ニッポン! 挙げろ! 挙げろ!」 私たちは叫ぶ。
そのとき、バーベルが宙に浮き、一気に頭上にまで上がった! 優勝決定だ!
私たちはもう大興奮。「ありがとう! 勇気を、元気を、ありがとう!」 私たちは、この新たなヒーローの誕生に割れんばかりの拍手を捧げた……。
その後、この選手のドーピングが発覚した。