以前、このブログで、教育委員会の仕事は「いじめはなかった」と言うことだ、と私は書いた。そしたら、それがどういう経路か教育委員会のお耳に入ったらしい。教育委員会からお呼びがかかった。
さっそく出向くと委員長が出てきてこう言った。「教育委員会では現在、いじめがあった、といえるような組織づくりを進めているのです。新しい私たちをぜひご覧にいれたくて」
委員長は私をまずある部屋に案内した。委員たちが椅子に座って大きな本を熱心に見つめている。見れば『ウォーリーをさがせ』のようだ。
「これはなんですか」と私。
「これは『いじめられているウォーリーをさがせ』です」
そのとき、絵本に没頭していた委員が「いじめがあった!」とうれしそうに叫んだ。
「まずは成功体験の積み重ねが大切なのです」
次に案内されたのは、ゲームセンターのような場所だ。数名の委員が銃を構えてシューティング・ゲームに興じていた。
「いじめを見つけるための動体視力を鍛える場です」
私は画面を見た。次々と出現する子どもたちを、委員は撃っていくのだった。
「いじめられている子どもだけを瞬時に見抜いて、愛の銃で撃ち抜くのです」
そのとき委員がミスをして、いまいましげに罵った。「くそっ、いじめがなかった!」
その次に私が連れて行かれたのは、いくつものモニターがある部屋だった。何人もの委員がモニターをじっと見つめているのだった。委員長は言った。
「ここにいるのは、訓練で 99.9% のいじめ発見率をマークした委員のみです。現在、地区内のすべての学校の監視カメラを通じて、いじめがないか、チェックしているのです」
モニターには校内のさまざまな地点が映し出されていた。私の目の前に座る委員は、体育館裏の草地のモニターを注視していた。
すると子どもたちが現れ、一人の子を叩いたり、持ち物を放り投げたりしだした。委員は即座に「いじめがあった!」と反応した。
私は感心した。「いや、すごいものですね」
「ええ、私たちはいじめを見逃さず、そのすべてを記録しています」と誇らしげに委員長は語った。「おかげで、子どもが自殺したら、ただちに『いじめがあった』と発表できるようになりました」