苦い文学

覚醒する飛翔体(終)

議場で意識を失った出来事から数週間後、ドバイでの休暇を終えたバーシーが再び議場に現れたとき、すでに参集していた議員たちはみな呆気に取られた。いや、肩透かしを喰らったというほうが正確かもしれない。

かの勇猛なるバーシーの面影は今いずこ、そこにいたのは、影の薄い柔和な男なのだった。

彼は微笑みを浮かべ、周りの議員に丁寧に頭を下げながら自分の議席に座った。

やがて審議が始まった。彼は静かに議論を見守っているようにみえた。

だが、不意に信じがたいことが起きた。彼が目を閉じ、頭をがくりと落としたのだ。彼がとことん憎み、亡国のもとと糾弾した居眠り、その悪徳が今まさに彼を飲み込んだかのようであった。と同時に、議員たちは、他に二人の議員が寝息を立てているのにも気がついた。

議員たちの口から驚きの叫びが漏れた。テレビ中継を見守る国民たちも一斉に嘆きの声を上げた。マスゴミたちは「民主主義が睡魔に負けた日」と書き立てた。だがそれらのざわめきもバーシーらを起こすことはなかった……。

そのとき——

バーシーはリトル・ウィングとなって日本上空へと舞い上り、日本海へと急いでいた。

彼の左右にも二機のリトル・ウィングが展開していた。右翼には共産党の議員、左翼にはゴリゴリの保守議員。バーシーの精神体は思わず吹き出した。

「おいおい、どっちが右翼で左翼だい!」

二人の議員はくすくすと笑う。そのとき、バーシーの脳に埋め込まれたミサイル防衛システムが《それ》を捉えた。

「さあ、おいでなすった!」

三機のリトル・ウィングは凄まじい速度で散開すると、その間に飛び込んできた北朝鮮製の弾道ミサイルの動きを封じた。三議員の精神体の放つパワーに絡め取られたミサイルはたちまち日本海のEZZ外へと跳ね返された……。

それから——

笹木田美那のもとに資料が届けられた。

彼女は困惑しながらパラパラとめくったが、印付きの議員が一人増えたこと、そして、その欄に、飛翔体となって任務に当たった日付とおおよその経緯度が記されていたことに気づかずに、他の書類と一緒くたにしてしまった。