これらの議員が全員、北朝鮮のスパイだとしたら……だが、笹木田美那は即座にこの考えを打ち消した。
というのも、丸印のついているのは野党議員だけではなかった。与党の議員もいるのだった。しかも、タカ派もいればハト派もいた。彼女がひどく興味をそそられたのは、その中に、保守本流の長老の名前もあったことだ。つまり、まるで政治信条に共通点の見出せない集団だったのだ。
となると、偽情報の可能性も排除できない。もちろん、政界では裏切りは常に想定外だ。これは長い秘書生活で彼女が学んだことだったが、同時にその経験が彼女に「何か裏がある」とも告げていた……。
やがて、議員たちは議場に集まり、審議が始まった。彼女は丸角権蔵の背後に座りながら、「印つきの議員」たちに密かに目をやった。だが、そこにいかなる異変も見出すことはできなかった。
国会でのやかましい審議は続いていた。そのとき、笹木田美那のタブレットに不穏な情報が飛び込んできた。
《慈江道、舞坪里のミサイル基地で動きあり。発射の可能性高し。》
そして、この情報を丸角権蔵に耳打ちしようとタブレットから顔を上げたその瞬間、彼女は信じられぬものを目にした。
「印つきの議員」の一人がスッと眠りに落ちたのだ。彼女が見回すと、他の「印つきの議員」たちもすでに居眠りに入っていた。
彼女はハッと気がついた。あわてて例の極秘資料をめくる。
違う! これはスパイ密告の文書なんかじゃない。北朝鮮のミサイルの動向と、特定の議員が居眠りを始める時間が一致していることを明らかにしているのだ!
笹木田美那は、不気味な慄きに圧倒されながら、寝ている議員たちを見つめていた……。