「寝ている政治家を起こす」ためだけに政界入りした正義の男バーシー、議場の奥で図々しくも居眠りを続ける三議員を発見するやいなや、猛然と走り寄った。議場机を掴んでガタガタとゆすり、不埒な議員どもを起こしにかかる。
ところが、この三議員、まったく動じず眠り続けるありさま。いよいよバーシー怒り狂い、机を叩き、議員どもの肩を小突き、耳元で怒鳴り、汗まみれになって奮闘するが、まるで効果なしときた。
いや、それどころか、三人の鼾、ますます音量を増し、不思議な三重奏を奏で始めたではないか。
氏名標を枕に寝転んでいる議員の鼾はずっしりとした低音で、それに乗るのが、つっ伏して痙攣している議員の鼻が刻む鋭いビート。そして、仰向けで頭をぐらぐらさせている議員の半開きの口からは、絶妙なカッティングに続き、流れるような妙なるメロディ……さながら超絶技巧のスリーピース・バンドだ。
議員たちはこの異様な光景に呆然として立ち尽くすばかりであったが、急に始まった演奏を聴くや、一人の議員が叫んだ。
「これは……Little Wing ……ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの……!」
その瞬間、ギターのビブラート音とドラミングが鳴り響き、あの有名なギターソロが始まった。
この名演に誘われて議員たちの口からかすかな歌声が漏れる。
「Fly on, Little Wing(飛ぶんだ、小さな翼よ!)」
ああ、だが、この歌声を、バーシーは耳にすることはなかった。彼は鼾の演奏に目を回し、気を失っていたのであった。
いったいこの三議員の正体は? そして、国会に響き渡った Little Wing の理由はいかに? 続く回にて解き明かすを聴きねかし。