苦い文学

保護活動

昔、一人のずる賢い男がいた。生涯にわたりさんざん悪事を行ってきた男は、ずる賢くも、すでに蜘蛛保護済みであった。

しかし、それだけでは男は安心できなかった。そこで、駅に行くことにした。駅のデッキに上がると、保護犬と保護猫の里親募集をしている団体が大声で支援を呼びかけていた。男はボランティアに声をかけ、数枚の紙幣を差し出した。

「保護犬と保護猫のために寄付いたします」

ボランティアは大喜びで寄付を受け取り、領収書を切った。

用事を済ませた男が駅を立ち去ろうとすると、別の団体が男に声をかけてきた。「難民のために支援を!」

普段の男だったら唾を吐きかけていただろうが、その日は気分に余裕が生じていた。男は黙って数枚の硬貨を手渡した。

それからしばらく経って、男は死んだ。そして、地獄に落ちて責苦に苦しんでいた。

ある日、男が火焔に包まれていると、空から蜘蛛の糸がスルスルと降りてきた。「おいでなすった」と男がその糸を掴もうとすると、男の周りにいた罪人たちもいっせいに糸につかみかった。凄まじい奪い合いがはじまり、男は殴られ、蹴られ、弾き飛ばされた。

その時だった。ケルベロスとスフィンクスが現れて、糸に群がる有象無象を薙ぎ倒した。「保護犬と保護猫の化身だ」と男は喜び、自分の糸にもう一度飛びついた。

男はそのまま蜘蛛の糸を上ろうとしたが、再び、罪人たちの大群が押し寄せてきた。罪人があまりにも多くて、ケルベロスとスフィンクスも逆にやられてしまったのだ。群衆は男をぺちゃんこに踏み潰した。

その時だった。一群の人々が現れ、男を救出すると、群衆に向かって大声で怒鳴った。

「やめろ!」

罪人たちは動きを止めた。男を助けた人々は語りかけた。「みんな! やめるんだ! このお方は(と男を指した)難民を助けたすばらしい人なのだ!」

そして、その難民の化身たちは、男がいかに立派で、天国に値する人物なのかを口々に語った。罪人たちはその話を聞いて感動したようだった。

誰かが叫んだ。「そうだ! このお方こそ、天国に行くべきなのだ!」

「そうだ!」「その通りだ!」「よし! この尊敬すべきお方を胴上げしようじゃないか!」「胴上げだ!」

熱狂した群衆は、男の周りに集まり、胴上げを始めた。

「せーの!」「よっこらしょ!」「ばんざーい!」

胴上げされながら男が上を見上げると、見知らぬ罪人が必死になって蜘蛛の糸を上っているのが見えた。そいつはどんどん上がっていき、やがて蜘蛛の糸とともに消えうせた。